「金沢の羽山ごもり」祭事解説

「金沢の羽山ごもり」は一般公開されていない部分が多く、謎のベールに包まれた神聖な祭りとなっています。

そこで、黒沼神社羽山ごもり保存会が作成した祭事解説の資料をご紹介いたします。この資料では、実際に祭りに参加しなければ分からない詳細な記述があり、民俗学的にも貴重な内容となっておりますのでぜひご覧ください。

 

『金沢羽山ごもり』の紹介
◆指定 重要無形民俗文化財 国指定 昭和55年2月1日
◆行事期日 毎年旧暦の11月16日~18日(以前は12日から7日間)
◆概要
金沢羽山ごもりは、黒沼神社境内にあるこもり家を中心として、注連縄(しめなわ)を張った神明井戸で行う『水垢離(みずごり)』、食事の前に行う『オガミ』、作法通りに行われる『ヤワラの儀式』のほか、田植えの様子をあらわした『ヨイサア』の行事など、一連の修業をして最終日に「おやま(羽山神社の奥宮)」に登り、日・雨・風・五穀、病難、災難、火難等のご託宣を受ける神事てある。
東北地方には、羽山の神を祀って作占いなとをする信仰が伝承されてきたが、金沢羽山ごもりには、神霊を招きノリワラ(神霊が憑依する人)を介して託宣を聞き、翌年の豊穣を予祝する農耕祭儀の古風な様子がきちんと残されている。日本古来の民間信仰の形が現わされている典型として特に貴重である。
◆主な行事など
〇水垢離
参加者は、自宅で別火(家族と分けて煮炊きした食事)をして、おこもりの間に自分が食する米野菜と味噌を持参し、神明井戸で「水垢離」をとる。期間中は、朝夕の合計4回行うことになる。最終日にはおよそ午前3時ごろに「水垢離」をとることになる。
〇オガミ
食事の前に行う行事。羽山の神前に参加者が冠(カンムリ:手拭いを折ったもの)をかぶり平伏し、先達の祝詞に合せて唱和する。
・天津神 国津神 払いたまえ 清めて給う
・謹上再拝再拝羽山の神社御前におろがみまする
・ああやに畏こし天照皇大神 ああやに畏こし豊受姫大神など・・・(16の大神に奏上)
〇ヨイサア
ホド(囲炉裏のこと:煮炊きをする場所)キヨメをして、行事の無事と田植えの成功を祈る。雷により雨を呼び込むと、田植えの行事が始まる。参加者は下帯(ふんどし)になり、馬を作って騎馬戦のようにぶつかりもみ合う。この時ヨイサアと掛け声を掛け合うことからヨイサアと言われる。
このヨイサアは、村の誰もが見学できる唯一の行事である。コジハン(休憩)と称して村人にみかんを撒いてふるまう。コジハンのあと注連縄を付けた神馬がヨイサアをして代かきが終わる。次に、苗に見立てた参加者を引き抜いて、畳の上に降ろす。苗ぶち(苗打ち:田植えをする人に苗を渡す役目)である。
最後に、全員そろって田植え歌を歌って終了する。
この後は着替えてサナブリ(田植えが終わった後に田の神を送る行事)となる。サナブリでは、祝謡も謡われる。

〇大ヨセの行事(ヨセ:箸のことをいう)
ニ日目の夕食(あんこもち)のとき、コソウ(新人)の机の前には大きなヨセが並べられている。とても食べられないので、取り替えてもらう行事である。

〇戸棚の前とゴッツオ
ニ日目の夜には、経験を積んだ年寄りたちも集まってくる。その中から数人を戸棚の前という席に座ってもらう。豆腐やお酒が用意されている。しばらくして野菜で作った男性器と女性器をゴッツオ(ごちそう)としてザルに入れ、先達やノリワラのところに届ける。ひと時談笑してコソウの近くの机に置かれる。いわゆる性教育の場でもあった。
〇クボミ検査
ゴッツオを届け、1升マスでお酒を飲みまわした後は、クボミ(お椀)検査が始まる。
ローソクでクボミの汚れを点検する行事だ。少しでも光らない部分があればやり直しを命ぜられる。物を大切に扱い、食べ物を無駄にしないという教えでもある。
〇48とうまいり
食事が終わった後、コソウたちは神明井戸に連れて行かれる。水垢離をとって黒沼神社の鳥居までを48回往復する行事である。実際には、オッカアが代わりに水垢離をとってコソウは裸になって数回往復する。監視役のカシキ(世話役のこと)が終わりの声をかけて終了する。
これで、コソウは一人前の村人として行事に参加していくことになる。
〇お山掛け
おこもりの最終日は「お山」の行事である。
全員がカンムリをかぶり、シラハリを着て、オソフキ(わらじの一種)を履いてお山に登る。前夜に示された時間に、それぞれが決められたものを持って、1番お山、2番お山と順に出発していく。こもり家からお山まで約1キロの行程である。1番おやまは、羽山に注連縄を張ったり篝火(かがりび)をたいたり会場づくりの隊列、2番おやまはご託宣に必要なものを持っていくようになる。カシキは灯明(とうみょう)など持つものが決められている。
ご託宣の際は、ノリワラが真ん中、先達がその横に座り、他の参加者はその前にひれ伏す。オガミの後、世の中や、雨風などの自然界のもの、各作物の作柄などを聞く。そのほか金沢全体の病難、災難、火難、盗難、事故などについて神の託宣を受けるのである。書記2名が一字も漏らさぬよう聞き取り、後日清書して村人に周知する。
ご託宣か終わると、お山から下がり、神明井戸にカンムリを浸して「オエキ流し」をして「お山」の行事が終了する。その後、こもり家で嫁取りの儀式や後片付けなどをして3日間の行事を終了する。
〇カシキ(世話役のこと)
・バッパア オッカアを4年勤めてバッパアとなり、オッカアの指導をして終わる。
・オッカア ヨメの修業を4年してオッカアとなる。
・ヨメ 毎年4地区周りでひとりづつヨメになる。

(黒沼神社羽山ごもり保存会)

 

「金沢の羽山ごもり」ギャラリー①へ続く